あの日のアマツカゼ
青山劇場の前には2枚の大きな立看板。
独り立ち、何かを見据えるような眼差しの凪(なぎ)。そしてメインキャストの頂上に立ち、静かに目を瞑(つむ)る凪。
当日券の抽選も含め、公演中何度も何度も劇場に足を運んでいたのに、その場に立つ度に、私はその2人の凪の、美しさにに目を奪われ、凛々しさに心を奪われ、しばし佇んだまま動けなくなりました。
その人はもう、大野君であって、大野君ではないようで。
遅くなりましたが、先日大千秋楽を迎えたアマツカゼの感想など。
あくまでも感想で、レポでも批評でもないので、演出がどうとか言うつもりはありません。
大野君の美しくキレのある殺陣についても、すでに沢山の方が熱く語っていて、今更私がいわずもがな、という気持ちですが、少しだけ。
当然のことですが、殺陣は一人でやるものではないので、当然周りの役者さんとの息の合わせ方が重要で、いくら大野君が美しく剣を振り落としても、それを受け止めるだけの力量をまわりの役者さんが持っていなければ、TVの時代劇ドラマのように花形役者がひとりスポットライトを浴びているような嘘っぽい立ち回りになってしまうのではないかと思います。
そういう意味でもすごくカンパニーに恵まれた舞台だったと思うけれど、なによりも回数を重ねるたびに密度が濃くなっている、それでいてのびのびとしている、どんどん進化している、と感じさせる殺陣だった。大野君がぐいぐいと、周りを巻き込んで高いところに連れて行ってるさまを見せられた、と言う気がしています。
これって、様々な場面において言えるんじゃないのかな。彼自身は決して他人に何かを強く要求するわけではないのに、彼に関わる人は知らず知らずのうちに彼の求心力みたいなものに巻き込まれて、いい影響を受けてしまう。そんなことを感じた次第。
それではそろそろ始めますが、ネタバレありです。
都合上ストーリーは前後したりもしますが、細かいことは気にしないで下さい。
タイトルになっている「アマツカゼ」は天つ風/大空を吹く風の意
劇中何度か、芝居の中でキーポイントとなるこの歌が唄われます。
ミギノサルサニシメシ (右の申、左に示し)
イタダキスベテフタノアナ (頂すべて二の穴)
カガミニウツルコガネムシ (鏡に映る黄金虫)
ホトケノヒルネニ (仏の昼寝に)
アマツカゼフク (天つ風 吹く)
アマツカゼフク (天つ風 吹く)
こんな風に聴こえたんですが・・・正確なところはわかりません。
神ノ岳、その山は宝の山だが、同時に、使い方を誤れば一瞬にして全てを失う諸刃の剣(もろはのつるぎ)という意味かと。(御神体を倒せば大風が吹いて、全てを吹き飛ばす)
暗闇の中に開門を促す大声が響くと、光と共に重い扉が開き、凪のシルエットが浮かび上がって、誰もが息を詰めて見守る中、階段を一歩一歩、静かに降りてくる凪。
やがて、舞台中央に立ち、そしてひざまづく。
蒼い焔(ほむら)をまとったようなその佇まい。深い憤り、やり場のない哀しみ、そして固い決意を湛えたその瞳は、敵の首を獲り、君主に献上するという手柄を立てた男のそれでは決してなくて、それだけで、こんなことが自分の本意ではないのだと語っているかのよう。
不動のかけるねぎらいの言葉にも視線を合わさず、姿こそはかしづいていても、心は決して平伏すことはない、頑なな心がそこに見えてしまう。なんだかもう、この冒頭のシーンで心臓を鷲掴みにされてしまって。
手負いを装い隠し持った小太刀で不動(ふどう)に切りつける凪。
「山城不動、討ち取ったり!」
不動の家臣をなぎ倒しながら、妹りんを連れ去ることに成功するかと思われたのも束の間、倒したと思ったそれは不動の影武者。
この後に、この芝居での狂言回し的な役割となる虱(しらみ)扮する似非(えせ)占い師の登場となるのだけれど、ここはいくつかの伏線が含まれていて、最終的に不動の命を奪うのが凪ではないということや、りんの悪女ぶりを垣間見ることが出来ます。
「獅子身中の虫に気をつけろ」
という謎の言葉を残し姿をくらました似非占い師の言葉を真に受けて、自分のことを言われているのではないか、不動が自分を疑っているのではないかとと気を揉む、家臣の影村(かげむら)に、りんが
「あまり気を病むと核の病に冒されますよ」
といったニュアンスのことを言うわけですが、ここで核の病(今で言うところの癌?)に冒されているのは、実は不動だな、そしてりんはそのときが来るのをじっと待っているのだな、ということが分かるシーン。
一度は取り逃した虱と再び出合ったのは神ノ岳。
神ノ岳の洞窟は隠し金山になっていて、虱はある夢のためにその隠し金山を守っていたのだけれど、凪の腕や智恵を見初めた虱は不動の手下などやめて自分のその夢のために力を貸せという。
その夢とは「風になること」
戦うことにむなしさを感じる虱は、風のように自由気ままに旅をし、毎日楽しく暮らしたいと言う。
「お前も風にならんか」
誘う虱にも、不動を倒し、両親の敵をとることに固執している凪は心を開こうとしない。
戦い続けることはこの山を登るようなもの。登って、登って、頂上に辿り着いたとき、そこになにがある?なにもないだろう?と問いかける虱に、凪が言う言葉がすごく印象的で。
「お前はなにもわかっていない。頂上のその先にはまだ、でっかい空がある」(ニュアンスです)
これで、この台詞で凪と言う人間の本質がすごく分かるんですね。
今は不動を倒すという目的のもと、心を閉ざし修羅の道を歩んでいるけれど、凪の、本当の魂が求めているのはこれなんだ、と。
ストーリーは単純にして明快でありながら、勧善懲悪(かんぜんちょうあく)ではなく、凪には凪の、不動には不動の、人を斬る理由がある事がやるせなくて。戦国の世にあって、力で以って全てを制することで頂点に登りつめた不動を、誰が悪と言い切れるんだろう。
そして、その強さゆえ、自分を脅かす存在として実の父親から殺されかける不動。その剣を止めるつもりが、勢いあまり計らずも父親を討ち倒してしまう。
実の父親に殺されかけ、反対に手にかけてしまった不動。
わが子が、わが夫を殺してしまうという、その業を目の当たりにした不動の母は、その罪を嘆き、夫の亡骸(なきがら)から剣を引き抜くと己の首に当て、自害してしまう。
自分の意思に反して父親に手をかけ、そして最愛の母親をも、自害に追いやってしまった不動の心の闇。
りんに母親の面影を見て、強引な手段で娶(めと)り寵愛(ちょうあい)する今も、悪夢にうなされ目が覚める。
「わしは子は持たぬぞ。わしの子はいつかわしを殺しにやってくる」
不動もまた、心に暗い闇と深い哀しみを抱える男。
神ノ岳の報告のために不動の寝室にやってきた凪。そこでりんの姿を見つけたときの凪が、すごく複雑な表情をするんですよ。
喜びや楽しみの感情を全て排し、修羅の道に生きると決めた凪にとって、たったひとつ心の糧となっている、愛する妹りんと、もっとも憎むべき敵、自分から父を、母を、多くの家臣を奪い、全てを壊した不動の、褥(しとね)の気配を察したときの凪の心情はいかばかりか。兄としての自分のふがいなさを強く責める心情が表情に出ていた印象的なシーンでした。
織田軍の砦をつぶす為にと、不動に騙され、雨を待ち、川を決壊させ、結果、罪もない村人の村を破壊してしまった凪。その苦悩、自分を責め、自暴自棄になり酒をあおる凪に追い討ちをかけるように、虱が
「俺の智恵をこんなことに使いやがって」
と凪を罵り、
「お前なら風になれると思ったのに」
捨て台詞を投げつけ、去っていってしまう。
やがて意を決した凪は山城軍の鎧(よろい)を脱ぎ、単身、不動の元へ向かうのだけれど、それはあっけなく失敗に終わり、凪はとらわれの身に。
仲間に助けられ、りんの奪回のため再び神ノ岳に向かう凪。
その間、凪を慕う忍の陽炎(かげろう)、そしてその陽炎を慕う仁雷(じんらい)の、壮絶な戦い、そして死があって。
この辺も大きな見せ場で端折(はしょ)るのはもったいないんですが、きりがないのですみません(泣)
以前、テキスト「雑誌ラッシュ1」の中で、大野君についてこんな事を書きました。
「こんなにも自分の作品に思い入れを持ちながら、それでも、この人は何かに「とらわれる」ことや「執着」することをしない。執着したり、とらわれたりすることは、とどまることと同じで、先に進まない。この人が常に進化している理由はこのへんにあるんじゃないか、と思う」
凪がいつまでも不動に勝てなかったのは、凪の心が「復讐」にとらわれ、執着しているから。
不動最期のとき、病に倒れた不動を抱きかかえ、凪が泣きながら叫ぶ、
「俺がお前を!」は、二度目、三度目には「俺はお前を!」
になって、それは私の想像の域を出ないけれど、
「俺がお前を倒すんだ!」から「俺はお前を越えたかった!」という凪の心境の変化、成長を表しているのではないかと。強くなる本当の目的を知った時、凪の心はしなやかで、より強靭なものへと変化をとげたのだと思います、思いたい。
凪の心を氷解させたきっかけは確かに虱だろうけれど、本当は、凪の心はすでにその高みに辿り着いていて、
けれど、「復讐」「愛する妹の奪回」に心が凝り固まっていた凪は、自分の本当の姿に気がつけなかった。
そして、まだ未熟だった凪を、そこまで導いたのは、敵であるはずの、不動であったと。
やがて、最愛の妹であったはずのりんの変貌を目の当たりにして絶望と虚無感に見舞われる凪。
ここがなんかもう。今まで自分が戦ってきた意味が、一瞬にして無になるって・・・。
けれど、りんも谷村家のお姫様として、生まれたときから何不自由のない暮らしをしていて、強引な手段で不動のもとへさらわれた後も、不動の寵愛を受けて、きれいなべべ着て贅沢に慣れた生活しか知らない中で、不動の、死を予感したときに、それらを全て失う事への危機感に恐怖したのであろうと思われ。
一度贅沢に慣れた女が、そして自分の身を自分で守る術を持たぬ女が、より強い権力や贅沢に身をゆだねるのは、ある意味自然の摂理。りんもまた、弱い女。
それでも正直言って、こんな女のために陽炎も、仁雷も、虱も、命を落としたのかと思うと深い憤りが湧いてくるんですが。
「俺がこの剣で人を斬るのはこれが最後だ」(ニュアンスです)
そう言って、りんに刃を向ける凪。恐れ慄(おのの)く、りん。そして刀が大きく振りかざされ・・・
しかし、凪が斬ったものはりんとの、兄妹の「縁」
そして凪は、凪の名を捨て、虱の遺志を継ぎ、風になって生きていくことを心に決め、起(た)つ。
と、かなり大雑把ではありますが。
まぁ、upすることに意味がある、と。(そうなのか?)
なにしろ、大野君の舞台を観るのは初めてのことで、観る前はナマ大野が近くで観られることや、噂に聞く殺陣のカッコよさを実際に観られる、という事に浮き足立っていた私でしたが、実際に芝居が始まってみると、そこにいたのは大野君ではなくて「凪」でしかなかったし、殺陣も「殺陣」としては観ていない自分がいました。
芝居が終れば「あの最後のシーンの殺陣が凄かったな」とか思うわけですけど、観ている最中というのは、「凪」が今目の前で晒されている危険に、胸がしめつけられるような感じで。
そして、全編通して寡黙な役柄である凪は、最小限の台詞や表情、佇まい、あるいは台詞のないまま、その心情を表す必要があるわけですが、本当に、それが痛いほど伝わってくるシーンが多くて。
陽炎との別れのシーン、傷を負った陽炎に
「敵に見つからないよう、隠れていろ」
と、陽炎の頭を抱いて言うシーン。凪の微妙な声の抑揚で、ああ、二人はこれがもう、今生(こんじょう)の別れとなるのだ、再び生きた陽炎に会うことはないのだ、ということが分かって、切なくて、切なくて。
自分の影となり、ずっと支え続けてきてくれた手負いの陽炎をそこに捨て置くことがどんな結果になるか分かっていて、それでもそうせざるをえない、凪の断腸の思い。そして、陽炎のひたむきさ、健気さ、気丈さに、涙があふれました。
この大野智という人の説得力って、なんなんだろう。「演技力」という種類のものとはちがうなにか。
大野君のやることには全て説得力がある。大野君の言う事には全て説得力がある。言葉ではなく、眼差しや、その姿勢に。それは舞台上のことだけじゃなくて。
この人を見ていると、いつも自分の中のなにかが、きれいなもので満たされる気がします。満ち満ちて、あふれそうになる。
個展に続いて舞台と、私たちは大野君から至福の時間をもらいました。
大野君、あなたのファンで幸せです。本当に、心から、ありがとう。
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コメント
お疲れさまでしたッ!
投稿 かえるやん | 2008年5月 1日 (木) 08時00分
あざーーーッス!
投稿 呑み助 | 2008年5月 1日 (木) 12時52分
漢字がたくさん…。薫も凪もソロダンスも…澄み渡る怖さと緊迫感を秘めていて…アマツカゼレポ堪能させて頂きました
投稿 モモたろう | 2008年5月 1日 (木) 14時25分
モモたろうさま。

無駄に長い上に漢字も多くて読みにくいですね、すいません。分かりにくいかな、と思うものにはフリガナをつけてみました
本当に、今年に入ってからはサトシゴトが多くて幸せですが、追いかけるのが大変っっ
モモたろうさんの仰るとおり、それらの全てが本当に研ぎ澄まされていて。大野君の魅力には、もうやられっぱなしでス。
投稿 呑み助 | 2008年5月 1日 (木) 19時03分
わがまま言ってスミマセン…調べればよいのに…。Hも立ち読みは無理でしたので先ほどじっくり読みました。智サンは奥が深い…5人ともなんですけど。ありがとうございました
投稿 モモたろう | 2008年5月 1日 (木) 19時31分
こんにちは!ご無沙汰してます☆
呑み助さまのレポっていつもすごいな~と思うんですけど、これは、すごい、一緒に心揺さぶられまくりでした。
呑み助さまの心情は計り知れないので、同じとは言っていいものなのかわかりませんが、もう、ずっと共感しっぱなしです。自分は子供の感想文みたいな事しか書けなかったので、「そうそう!そうなの!」と思いながら読ませていただきました。
こんなに素敵な大野くんを書き残して下さってありがとうございます!
DVD化の際には初回特典だろうがなんだろうが、大阪の千秋楽の模様をぜひ!って署名運動でも始めますか?(笑)
投稿 mana | 2008年5月 3日 (土) 11時21分
manaさま。
おひさしぶりー。manaさんとこもいつも読み逃げさせてもらってます(笑)
manaさんのアマツカゼのレポ、のど仏に激しく同意ですぅ。私も大野君ののど仏、大好物!(←変態)汗に濡れて超sexyなの!
大阪千秋楽DVD化運動!やらねば!(笑)
しゃがみこんで顔を覆って泣く大野君、観たいよねー!観たい観たい!そして一緒に泣きたいよー!!
投稿 呑み助 | 2008年5月 3日 (土) 12時27分